Black-Scholesモデルにおける株価の表現とコールオプション価格
ブラックショールズモデル下での株価とコールオプション価格を導出する。
株価モデル
次の確率微分方程式で表される確率過程を(1次元)Black-Scholesモデルと呼ぶ
ってなに?
ブラウン運動の微小変分。株のギザギザな動きのモデルである。
この項がないと株価の動きはもっと滑らかなものになってしまう。1
確率微分方程式では、微小変分をとる変数は全て確率過程である。
も、時間変数を確率過程と見ることができるため例外はない。
上の方程式では微小変分はとのみ右辺に現れる。確率微分方程式ではしばしばこの形である。2
(BS)式の大まかな意味は、の変分はの大きさに相関し、株価のばらつき具合はに相関するということである。
株価の導出
ここで重要なのは「伊藤の公式」である。
「伊藤の公式」を大まかにいうと半マルチンゲール3に対し、十分滑らかな関数についてが次のようにテイラー展開4できる。
$$f(X_t)-f(X_0)= \int_0^t f'(X_t) (dM_t+dA_t) + \frac{1}{2}\int_0^t f''(X_t) d<M_t>$$
<>に関しては下の3を要参照。微分方程式の形にすると次のようになる。
$$df(X_t)=\frac{\partial f}{\partial X_t}dX_t=f'(X_t) (dM_t+dA_t) + \frac{1}{2} f''(X_t) d<M_t>$$
後知恵だが、次がBlack-Scholesモデル下での株価の解になる。5
これが解になることを確かめよう。
を上で与えられるものとし、これをの関数とみる。
すなわち、とし、伊藤の公式より、
$$dS_t=df(B_t)+f_tdt=f'(B_t)dB_t + \frac{1}{2} f''(B_t) dt + f_tdt$$
ただし、でのによる偏微分を表すとする。
右辺1,2,3項目はそれぞれ,,より、これを足して(BS)式を得る。
コールオプション価格の導出
Black-Scholes偏微分方程式を導出し、Feynmann-Kacというチート便利な公式を利用し、解を求める。
Black-Scholes偏微分方程式
時刻にを買うコールオプション価格(時刻に株を価格で買える権利)をの関数とし、と表す。
伊藤の公式とBSより、
ここで市場が無裁定であることを仮定する。簡単な考察6により上から次が成り立つ。
これをBlack-Scholes偏微分方程式という。
Feynmann-Kacの公式
次がFeynmann-Kacの公式7である。
$$\frac{\partial u}{\partial t}+\frac{\partial u}{\partial x}px+\frac{1}{2}\frac{\partial^2 u}{\partial x^2}q^2 x^2 -ru=0$$
$$u(T,x)=f(x)$$ なる微分方程式に対し、
$$u(s,x)=E[e^{-\int_0^{T-s}rdt}f(X_{T-s}^x)]$$
ただし、とは、
の解である。
なので先程の株価の式を代入しよう。すると
]
今、は終端条件で<なら買うことを考えると
あとはごりごり計算するのみである8。よって上の式は以下のようになる。
つまり、求めるコールオプションの価格はなので
ただしは8参照。
以上である。
参考文献では刻々と変化する国債(リスクフリー資産)を考慮しインフレ補正のためのデフレーターを導入していた。
今回は簡単のためインフレ率rが定数の場合を考え、また1種類のリスクフリーでない株価のみの場合を扱った。
反省
簡潔にしようと心がけたが、わかりにくい
読んだ人に時間返せと言われそうなクオリティで辛い。次は図とか利用してまとめたい。
Feynmann-Kacを使いたくてたまらなかったため今回は使いましたが、もっと初等的なやり方(熱核の重ね合わせ)で解が求まります。
Feynmann-Kacが有用なのは微分方程式が非線形なときなので、今回は正直うまみがありません。
確率微分方程式は、次はFeynmann-Kacの証明かMalliavin解析の本読むか、どちらかをします。
明日は勉強しているフランス語か代数幾何か民法の記事書きます。
参考文献
長井 英生 (1999-2003) 『確率微分方程式』共立出版.
2~5章を主に参考にした。
4章あたりを大いに参考にした。
1.正確にいうと、確定的なものになってしまう。(の項があるときは確率的なものになる)
2.もちろん例外もたくさん作れるが、次の定理で下記の半マルチンゲールのマルチンゲール部分は本質的にを考えることに帰着する。
をブラウン運動とする。をマルチンゲールとすると、ある確率過程が存在し、
$$M_t=\displaystyle \int_0^t X_s dB_s$$
3.確率過程が半マルチンゲールであるとは、初期確率変数,マルチンゲール,右連続単調増加過程で有限なものの差で表される (これは有界変動になる)に分解できることをいう。
マルチンゲールとは大まかにいうと、ブラウン運動のようにギザギザ動きながらもある箇所での増分はこれまでの路に関係なく、平均すると0になるようなものである。
との注目したい違いは、は各路が有界変動のためリーマン積分を定義可能であるが、ではあまりにも変化がばらばらなため破綻することである。
ここで2次変分<>という確率変数に注目する。これは、<<<...<<と区分をとったときの $$\sum_{i=0}^{n-1}(M_{t_{i+1}}-M_{t_i})^2$$ を、区分を細かくしていったときの極限である。
ただでさえ有界変動じゃない(例としてBrown運動はマルチンゲールだが、有界変動ではない。確率1でサンプルパスが無限の変動をもつ)のに、そんな和をとって収束するのかと疑問になるが、これはマルチンゲールに対し収束する。
深く立ち入らないが、この2次変分に注目することが、伊藤の公式において2次の項を打ち切ることを可能にしている。
4.正確にいうと、テイラーの定理で2次の項まで展開したものがに収束しているということである。
確率積分は伊藤積分を想定しているが、ストラトノビッチ積分などでは公式が変わってくる。
今回は微分方程式がリプシッツ条件を満たしているため、初期分布がで可積分なら一意である。
6.を買って確実に儲けることを考える。 なので、のの係数がであることを思い出す。
つまり
ここで無裁定とは、市場の株の売買で無リスクで儲ける方法があるとき、儲けの率はインフレ率にしかならないということと考えられるので(ここ曖昧。誰か詳しく教えてくださる方教えてください)
つまり
上の式と比較して
粘性解が十分滑らかなら解になることが知られている。
個人的な感想ですが僕は確率論と微分方程式を橋渡しするこの公式(伊藤は言わずもがな)大好きです。ただFeynmann-Kacは証明はまだしたことありませんすみません今月中にします。
Feynmann-Kacはもっと一般の形に対して有効である。
に対し、]
が成り立つ。ただしは
であり、は
の解。
今回は特にである。
8.ここでのブラウン運動は0から始まるので、0から始まるブラウン運動の性質としてはを分布として持つ。
ただしは平均0,分散の正規分布。
つまり
ここで、
は上の通りである。